12月8日16時27分配信 産経新聞
うわあっ-。祈るように冬の夜空を見上げていた人々から、ため息がもれた。響き渡る鐘の音色とともに、幾重にも連なるアーチが真っ白に光り輝く。「見慣れているはずなのに、やっぱりこの瞬間はゾクッとしますね」。毎年訪れているという神戸市兵庫区の女性(58)はこう話した。「神戸ルミナリエ」の点灯の瞬間だ。
冬、神戸は1年で最も美しい季節を迎える。4日に開幕したルミナリエ会場からほど近い中華街・南京町では、中国提灯(ちょうちん)で路地を彩る「ランターンフェア」を開催中。JR三ノ宮駅周辺では今年から新たに「光のデッキ回廊」が始まっている。
ルミナリエ終了後には、旧居留地でイルミネーションが輝き始め、年明けには、六甲山で氷像のライトアップがスタートする。冬の間、神戸ではバトンを受け渡すかのように、途切れなく光のイベントが続く。まさに「光の都」となるのだ。
■闇を知るからこそ絶やさぬ灯
「神戸の人は闇の恐怖を知っている。だから、光を灯し続けるのじゃないかしら」
月刊誌「神戸っ子」の総編集長として47年間神戸を見つめてきた小泉美喜子さん(72)は、こう話す。
阪神大震災で、神戸の街は光を失った。「まさに火の消えた町。ゼロ、だった」。小泉さん自身も自宅マンションが全壊し、がれきの中から救出された。町の灯が徐々に戻ってくるときのうれしさ、光のあたたかさ、ありがたさを骨身に染みて知っているからこそ、神戸は光を絶やすことがない。
「でも、それだけじゃないのよ」。小泉さんは一つの句を挙げた。
「菜の花や 月は東に 日は西に」
江戸時代の俳人、与謝蕪村の有名な一句だが、実は神戸の摩耶山を訪れたときに詠んだものだという。昼は海に反射したまぶしいほどの光にあふれ、太陽が沈めば、今度は六甲山系からのぞいた月が、やわらかい光で町を照らす。
「もともと神戸は、太陽と月の光をいっぱいに受けた明るい町。美しく、おしゃれに闇から立ち上がろうというルミナリエは、ほんまに神戸らしい光」
地形上の特徴はまだある。海のすぐ近くまで山が迫り、その間に都市が広がる神戸の街並みは「1000万ドルの夜景」としても知られる。山から見下ろす夜景はもちろん、旧居留地や中華街・南京町の異国情緒あふれる光、波止場の灯と、エリアごとに多彩な表情をみせる。
そんな夜景の魅力をさらにPRしようと、平成18年からは観光キャンペーン「KOBEロマンチックフェア」が始まった。
フェアを推進する神戸国際観光コンベンション協会の坂井亘さん(32)は「『ナポリを見てから死ね』という言葉がありますが、『神戸の夜景を見てから…』といわれるようにまでしたい」。冬は一般的に観光客が落ち込むとされるが、神戸では寒くて風が強いことを逆手に取って、「空気が冴(さ)え、夜景がきれいに見える」ことをPRする。
坂井さんは、言葉に一段と力を込める。「六甲山は標高約800メートル。これだけの高度から、神戸、大阪、和歌山まで広がる大規模な都市圏を見下ろせる場所はそうそうありません。神戸の夜景は、世界に発信できると自信をもっていえます」
神戸っ子が光について話すとき、その顔もまた輝く。(文・塩塚夢)