昭和初期、大陸への玄関口 大連航路上屋復興へ 北九州市門司港レトロ 観光名所狙い今秋改修

5月14日15時7分配信 西日本新聞

 昭和初期の門司港(現北九州市)で旅客船の待合室として築造され、現在は空き家となっている西海岸1号上屋(通称・大連航路上屋)が大改修されることになり、今秋にも工事が始まる。アールデコ様式が目を引く名物施設をこのまま朽ち果てさせては惜しいと、北九州市が買い取って観光施設に再利用することを決めた。

 国会議事堂も手掛けた官庁建築家大熊喜邦氏が設計を指揮し、1929(昭和4)年に岸壁約140メートル沿いに「門司税関1号上屋」として完成した。鉄筋コンクリート2階建てで、出入り口脇の監視室が半円形に飛び出すなど、幾何学的形態を取り入れたアールデコ様式が特徴。

 当時の門司港は、大陸方面への船が日本で最後に立ち寄る「ラストポート」であり、中国やブラジルなどと結ぶ40航路に月計180便が発着するにぎわいだった。テープをたなびかせて港を出る船を家族が岸壁から見送った。欧米各国の大使館が置かれた中国・上海とも結ばれ、洋服やジャズの最先端の流行が持ち込まれたともされる。

 戦後の約20年は米軍が接収し、その後に門司税関の仮庁舎や倉庫としても使われた。老朽化した建物を北九州市が今年3月、門司税関と九州地方整備局から約900万円で購入した。

 秋に始まる工事は、壁や窓の増設部分を撤去し、外壁をコンクリートで補強するなど、完成時の姿に近づける下準備。改修費は約2億5000万円。その後、耐震補強と内装工事もする。改修後の具体的な用途は検討中で、2階屋上にウッドデッキや芝生緑化を施し、関門海峡の展望スポットにするなどの案も浮上。2013年ごろには工事を終え、門司港レトロ地区の新名所になりそうだ。

 地場大手の港湾運送会社役員を長年務めた永木睦文さん(94)は「門司港の繁栄を物語る建物の保存活用はうれしい限りです」と話していた。