伊那市荒井の酒蔵・宮島酒店が16日、かつて仕込みに使ったおけやたる、搾り機を解体した木材などを売却する「大処分市」を、同社近くの資材置き場で開く。長く保管してきたが、今後の利用が見込めないため処分を決めた。酒造りの歴史を伝える品々の散逸を惜しむ声はあるものの、ベテランの蔵人たちは「時代の流れ」と静かに引き渡しの日を待っている。
宮島酒店は1911(明治44)年創業。今回は、3升(5・4リットル)~4斗(72・1リットル)のたる、7~22斗のおけなど計約120点を処分する。同社はガーデニングや飲食店の飾りなどでの利用を提案。もろみから酒を搾る箱型の「酒槽(さかぶね)」を解体した板、蔵などに使われたとみられる柱・はり材なども計5立方メートルほどあり、ウッドデッキの床やまきなどに使えそうだ。
社長の宮島敏さん(48)らによると、たるは瓶が普及する戦後間もなくまで小売店や飲食店への販売に使い、回収しては酒を詰め直した。おけは昭和30年代ごろからホーロー製のタンクに替わり、酒槽も搾りの機械化で20年ほど前に使わなくなった。
一部は資料としてそのまま保存し、テーブルに加工して使っている部材もある。処分を知った人から「もったいない」という声も寄せられているが、宮島さんは「木が貴重だった時代に保管した思いは分かるが、すべては抱えきれない」と話す。
杜氏(とうじ)の伊藤茂さん(78)=東春近田原=は同社で60年近く酒を仕込んできた。若いころ、夏場は養蚕や稲作に取り組み、冬場の季節労働として従事。洗米、蒸した米の運搬、搾りなどはすべて人の手が頼りだった。中でもおけは、長く使わないと乾燥してすき間ができる。仕込み前の準備として、大釜で沸かした湯をたるに入れて、おけに何十回もつぎ込んだ記憶が残る。
売却されるおけ、たるは縁が丸く摩耗し、使い込んでできたつやもある。「今の衆はみんな機械でやるもんで、だんだん(かつての苦労を)知っとる衆がなくなってきた」と伊藤さん。道具の「見納め」のため、処分市に行くかどうか思案している。
処分市は午前10時から。小さなたるは300円ほど、まきは1束150円。一部は入札で売却する。問い合わせは宮島酒店(電話0265・78・3008)へ。
(提供:信濃毎日新聞)