たばこが、10月1日からのたばこ税増税に伴い大幅値上げされる。増税は4年ぶりだが、財源確保を狙った過去の例と異なり、狙いは健康増進。〈たばこ離れ〉を促す異例の増税で、愛煙家を取り巻く環境は一層厳しさを増す。店舗に喫煙場を新設した小売店が関西で初めて現れる一方、医療機関の禁煙外来は志願者が列をなす。値上げまで10日。2500万人の喫煙者はどう動くのか。
(社会部 淵上俊介、神原康行)
喫煙場設け小売店防戦
□販売25%減か
国内外の約300銘柄をそろえる大阪市西区の老舗たばこ店「ふくすけ堂」は今月、オフィス街に面した店頭に喫煙場(約7平方メートル)を設けた。同店によると、喫煙スペースを設けた店は関西初。ウッドデッキにベンチを据え、4~5人が座れる。日中とぎれることなくサラリーマンらが訪れて紫煙をくゆらせている。
日本たばこ産業(JT)は、10月から1年間のたばこ販売数量は前年より25%落ち込むと予測。今年、過去最低の23・9%となった喫煙者の比率も来年はさらに下がるとみている。財務省によると、喫煙者減などで毎年1万店前後のたばこ店が廃業しているという。
ふくすけ堂店主の熊谷博明さん(55)は「今後、廃業ペースは進むだろうが、公共の場の全面禁煙が広がる中、愛煙家が気兼ねなく喫煙できる場を提供するのは、店を守るためと同時に社会的責任と考えた」と明かす。
□今度こそ成功
禁煙外来がある同市天王寺区の「上本町わたなべクリニック」には8月以降、値上げを理由に禁煙を目指す男性が約300人も来診した。普段の月の1・5倍に上る数という。
禁煙治療は2006年から保険が適用され、投薬など約3か月の治療プログラムは2万~3万円。1日1箱吸う人なら、約3か月分のたばこ代と変わらない。昨年は約1000人に禁煙指導し、8割が成功した。
受診者は一様に、過去の禁煙挫折体験や、家族に煙たがられるつらさを訴えるという。「愛煙家を気取りながら本音では禁煙したい人が大半。今度こそはあきらめの悪い人たちも引導を渡されるのでは」と、渡辺章範院長(37)は期待する。
自治体や農家、減収の懸念も
□税収2兆円割れ
「健康志向が進む中、税収減も仕方ない。自治体が喫煙を奨励するわけにもいきませんし……」。大阪府の担当者は複雑な表情だ。
たばこ税の6割は地方に回り、財政難に悩む自治体には貴重な収入だ。だが、たばこ離れの加速で、増税でも今年度の税収は、20年ぶりに2兆円を割り込む見通し。府も6億円の減収になると予測している。
葉タバコの生産が全国一で、約1000戸の生産農家がいる熊本県。増税による販売量の減少で、作付面積も縮小するとみる。県農産課は「増税幅が大きすぎる。農家への影響が心配だ」と表情を曇らせる。
たばこ値上げ 1本あたり3・5円、1箱(20本)70円の増税は過去最大。品質維持などのコストが上乗せされ、JTは106銘柄中104銘柄を110円~140円値上げする。
(2010年9月21日 読売新聞)