痴漢対策の一環として、JR東日本は28日から、東京と埼玉を結ぶ埼京線の一部の電車内に防犯カメラを試験的に設置する。通勤電車内に設置するのは全国で初めて。同社内では当初、乗客のプライバシー保護の観点から慎重論もあったが、首都圏の路線で痴漢被害が最も多く発生している現状を重くみて、導入に踏み切った。
電車内での痴漢対策を強化している警視庁と埼玉、千葉、神奈川の3県警は10月、首都圏の鉄道事業者を招いた官民会議で、電車内に防犯カメラを設置するよう要請していた。
JR東によると、山形新幹線や「成田エクスプレス」のデッキには防犯カメラが設置されているが、置き引きやテロ対策が目的。通勤電車は前例がなく、「乗客のプライバシーを侵害することにならないか」という慎重論があった。
しかし、コンビニの防犯カメラによる撮影や録画に違法性はないとした名古屋高裁判決(05年3月)などを検討した結果、映像を犯罪捜査以外に使わず、一定期間保存後は消去するなど運用を厳格にすることで、問題をクリアできると判断したという。
警視庁によると、今年1~9月の都内の電車内における痴漢被害(強制わいせつを含む)は計1174件。路線別では埼京線が146件と最多で、痴漢仲間を募るネット掲示板を見て集まった男らが集団で痴漢をしたケースもあった。このためJR東は、埼京線の一部車両で試験運用することを決めた。効果を分析したうえで、設置車両の拡大や他路線への導入を検討する。
一方、他社には今のところ追随する動きはない。京王電鉄広報部は一定の抑止効果はあるとしつつも、「満員電車には死角が生じるため、実効性は低いのではないか。現時点で検討していない」。東急電鉄広報担当も「プライバシーの問題を考えると難しいが、世論が高まれば検討する可能性はある」としている。【川辺康広】