◇損傷進む船体、えい航撤去は困難か
熊野市沖の熊野灘で起きたフェリー「ありあけ」横転・座礁事故から13日で1カ月を迎える。船体は御浜町の七里御浜海岸に横たわったままで、漁に出られない漁業関係者はいらだちを強める。漁協や地元自治体は、さらなる重油漏れなどを懸念し、現場での解体を避けるよう所有者のマルエーフェリー(鹿児島県)に要求しているが、船体の損傷が進んでおり、えい航撤去は不可能との指摘が出ている。【岡大介、汐崎信之】
●なお残る重油
撤去について同社はこれまで、現場での解体を一度は示唆した。有村和晃社長が4日、県に呼ばれ現場解体を避けるよう求められた後も、「えい航がベストかもしれないが、(可能か)まだ分からない」と慎重姿勢だった。
背景には、座礁した船体が自重に耐えきれず「かなり損傷が進んでいる」(尾鷲海上保安部)状況がある。あるサルべージ関係者は「船体をそのままえい航するのは、まず無理」とし、「現場解体を避けるのであれば、船体を三つほどに輪切りして台船に乗せ、別の場所に移すのではないか」と話した。
重油の除去作業も終わっていない。事故当時、船体に残っていたとみられる重油500キロリットルのうち、10日現在で418キロリットルは抜き取られた。だが、デッキなどに付着した油の除去に手間取り、完全除去にはさらに時間がかかるとみられ、撤去作業を始める見通しすら立たないのが実情だ。
●「年越せない」
一方、事故による重油流出などから、地元の紀南漁協(紀宝町)は10~12月が最盛期のイセエビ漁を含むすべての漁をストップしている。熊野漁協(熊野市)も定置網漁などの一部操業停止を余儀なくされている。
紀南漁協の佐田美知夫組合長は「漁業者の多くは借金をしながら操業再開を待っている」と窮状を訴えるが、有村社長は「撤去には来年半ばまでかかるかもしれない」と漁協側に伝えている。マルエーフェリーは漁協組合員に対し「つなぎ資金」の提供を申し出ているものの、80代の組合員は「この程度で年が越せるか」と憤りを隠さなかった。