【新幹線物語】(6完)大阪-鹿児島間、4時間の衝撃

3月7日9時48分配信 産経新聞

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水都・大阪と4時間で結ばれる火の国・鹿児島。背後に雄大な桜島がそびえる(左山広二撮影)(写真:産経新聞)

 ぐっと近づく鹿児島-。九州新幹線鹿児島ルート(博多-鹿児島中央)が平成23年春に全通、山陽新幹線との直通運行が始まると、新大阪から熊本は3時間20分前後、鹿児島中央までは4時間ほどで結ばれる。現在、新幹線と在来線特急を乗り継ぐと新大阪-鹿児島中央間は5時間程度だが、約1時間の短縮く加え乗り換えが不要になる。かつて「ひかりは西へ」のキャッチフレーズで博多まで延伸された新幹線のネットワークが、ついに九州南端まで伸びる。“4時間ショック”は観光、ビジネス客の時間、距離感覚を大きく変え、航空業界にも激震をもたらしそうだ。

木目調の車内

 九州新幹線鹿児島ルートでは新八代(熊本)-鹿児島中央間(約128キロ)が平成16年3月に開業。800系新幹線「つばめ」が走るが、九州では急勾配が多く山陽新幹線からの乗り入れには、高出力の新型の専用車両が必要となった。JR西日本とJR九州は、19年7月から営業運転されている最新のN700系をベースに共同開発した。

 新型車両は8両編成(定員546人)で先頭はノーズが張り出したエアロ・ダブルウィング形。山陽新幹線区間での最高速度は時速300キロ、九州新幹線内では時速260キロを出す。ボディーカラーは伝統的な青磁の「白藍(あい)」色を使用、客室、デッキ部は落ち着いた木目調のデザインでシートのテーブル、手すりも木製だ。モバイル用コンセントも設置してビジネス客にも対応し、安全への配慮から車内には防犯カメラも設けた。

 博多-新八代間(約121キロ)では駅舎、高架設備の工事は順調に進み、すでにレール敷設も始まっている。

航空業界に激震

 新幹線は常に航空機との競合に挑んできた。のぞみの投入と増発による速達性向上は、沿線の航空路線を次々と駆逐してきた。

 大阪空港から鹿児島空港(鹿児島県霧島市)までは飛行時間こそ1時間強だが、空港が鹿児島市街地から約30キロも離れており、シャトルバスなどを使うと市中心部まではトータルで3時間10分程度かかる。さらに直通新幹線は1時間に1、2本の運行が予想され、便数が限られた航空機の形勢は一層不利だ。

 中国地方ではさらに状況は厳しくなる。広島西飛行場(広島市)から鹿児島空港までは飛行時間は1時間5分でトータルでは2時間強。直通新幹線では2時間半程度と大差はなく、航空機は1日3便だけ。広島県は「JRは航空運賃より安い料金設定にするだろう。航空機は新幹線には太刀打ちできない」(空港振興課)とみる。

 鹿児島便の搭乗率は6割だが、定期路線が同便と宮崎便しかない広島西飛行場にとって利用者減は死活問題。岡山空港(岡山市)も鹿児島便を持つが、3100台の無料駐車場を備えていて、まだしも新幹線との競合に強い。国内路線は他に東京便など3便あるのでインパクトは限定的だ。

 広島西飛行場は5年の新広島空港(現広島空港)の開港後も地元財界や広島市が東京便誘致を希望して、廃港を免れた経緯がある。空港のあり方自体が問い直されそうだ。

 広島、岡山からの鹿児島便を運行する日本エアコミューター(鹿児島県霧島市)は「影響は大きいだろうが鹿児島空港は離島便が充実している。本土観光組は新幹線、離島観光組は飛行機と“棲み分け”ができる可能性もある」(総務グループ)としている。

南九州観光の可能性

 鹿児島市は昨年、NHK大河ドラマ「篤姫」による観光ブームにわいた。屋上に観覧車が回る巨大な駅ビルが隣接した鹿児島中央駅はにぎわいの玄関口だ。

 雄大な桜島、錦江湾の絶景をはじめ西郷隆盛のゆかりの名所も多い。砂蒸し風呂が楽しめる指宿、天孫降臨神話ゆかりの霧島神宮や高千穂峰など隣県の宮崎も含めて観光資源に富む南九州はまた、黒豚料理や焼酎などグルメを楽しめる地でもある。

 直通新幹線の登場は九州観光をアピールする好機。鹿児島など九州7県と経済団体、旅行会社などでつくる「九州観光推進機構」(福岡市)は「修学旅行は近年、コスト高の海外や沖縄から九州方面にシフトする動きがある。2年前には目的地が決まるので、昨年夏には大阪で教員向けの説明会を開催、直通新幹線と九州をPRした」(事務局)と話す。今年は広島など中国地方でも説明会を開催する予定、という

 関西、中国地方の発展を担ってきた新幹線。関西と南九州の異なる文化、経済圏の直結は様々な可能性を秘めている。

 =おわり(この企画は、左山広二が担当しました)

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