オフィス移転をして考えたこと

最近オフィスを移転した。新橋の外堀通りに面したビルに12年ほどいたが、住宅街の戸建てに引っ越した。一階にリビング・ダイニング+キッチン+バス・トイレ、二階に3寝室の典型的なファミリー向け3LDKである。

 リビング部分には、4畳半ほどのウッドデッキが付いていて、その周りは緑である。ここに越してきて最初に感じたのは電話の音の大きさとコピー機の音であった。新橋にいた時と同じ音量なのに、ここではうるさく感じられる。新橋では車や人通りの喧騒にかき消されていた音が、静かな住宅街では騒音と化すのである。

 また、窓越しに豊かな緑が見えると実に心が落ち着く。どうして今まで住宅関連の仕事をしている私たちが、住宅街に事務所を構えようと考え付かなかったのだろうと不思議にさえ思う。

 引っ越し荷物を作っているときに初めて実感したのが、空気が汚かったのだなあということ。本棚の本についている埃は、真っ黒で脂ぎっている。排ガスが舞っている環境の中に身を置いてこの本に付着しているのと同じ脂ぎった埃を私たちも吸っていたのだと思うとぞっとした。利便性をとるか居住性・快適性をとるかという問題であろう。

 考えてみると、私たちは事務所で1日のかなりの時間を過ごす。その環境をもっと重視してもよかったのではないかと反省している。

 ここに越してくるに当たって、スチールでできたオフィス家具や机をほとんど廃棄して、木製のものだけを持ち込んだ。住宅オフィスにスチールキャビネットや事務机は合わないからである。戸建て住宅の中でも収納の多いこの家は、書類やもろもろの備品を隠してしまうにも都合がよかった。常に使うもの以外はすべて押し入れや納戸、クローゼットに収納できた。また幸運なことに、ここには床暖房が付いているので足もとから温まり、のぼせずにすむ。

 朝晩雨戸の開け閉めをしなければならない、駅まで6~7分歩かないと銀行や本屋がない、時々庭の草むしりをしないと見苦しい、という今までになかった不便さはあるが、それを補って余りあるメリットがあると今のところは思っている。

 創業以来30年近くの間に、6回も引っ越しをするほど引っ越し好きの会社であったが、今まではオフィスビルばかりを渡り歩いてきた。事務所移転すなわち事務所ビルを探すというステレオタイプに陥っていたとしか思えない。既成概念をはずして事務所選びをする、住まい選びをするということも重要なことだと思った一件であった。

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